研究内容概要(一部の例を紹介します)順不同
移動エージェントの制御
生活を豊かにしたり、災害や危険から社会を守るために、移動体(車両ロボット、ドローン)の 活用が期待されています。これを実現するためには、移動体には指令者による遠隔操作がなくても自律的に活動できる頭脳が必要です。また、様々な環境や障害の中で目的を行使するためには、一体ではなく、複数の移動体が協調して作業を達成するような協調型移動体制御が重要になってきます。移動体間の通信と環境の測定に基づいたフィードバック制御を使えば、移動体を群として協調させ、目標点への到達、目標物の追跡・包囲、編隊をさせたり、物を運ばせたりできます。複数のセンサ・通信の有効活用と、通信の切断に対処する推定フィルタを使えば、障害物や移動体が故障しても、自動的に再編成して協調しながら移動体が自律的活動することが可能になります。

衛星等の姿勢制御
動きに制約のある衛星や構造物を、冗長な入力を巧みに利用して制御する方法を開発します。

ロボット制御理論
ロボットとは、人の代わりに作業を行う装置・機械です。。 1970年代頃から工場内で大活躍を始めたロボットは、近年では、宇宙、 介護、観光、交通、エンターテイメント、廃炉処理などさまざまな場で働い ています。そのようなロボットの特徴は、複数のアクチュエータを持ち、作業空 間・環境が多次元で変化する状況下で、複数の機能を自動に発揮することです。 事前に定めた動作や、遠隔で人が操作・指令する装置・機械と区別して、 自律型ロボットと呼ぶこともあります。 自律機能の実現には、複数のセンサーを搭載し、その情報を処理して複数のアク チュエータを工夫して自動的に動かすことが鍵です。これは多変数フィードバ ック制御系と呼ばれています。 すばらしいロボットは、ハード技術の進歩だけでは実現できない。 周囲の状況情報を行動に自動的に結びつける頭脳と、それを効果的に発揮させるハードの 構造設計の両方を追及することが大切です。 このようなロボット制御理論がAIの単体技術と違うところは、 ハードの構造を巧みに活用すること、及び、時間・タイミングを鍵とするところに あります。すばらしいAIが創り出した情報を使っても、時間・タイミングが間違うと ロボットは破壊・崩壊マシンになってしまうからです。 頭と体がつりあっていなければ無用の頭でっかちで終ってしまいます。

渋滞の制御
通勤やイベント開催によって車の渋滞が起こります。ドライバーがなるべく速やかに目的地に到達でき るよう、適切な信号の導入と活用、渋滞を緩和するように道路の整備する方法を開発します。 また、渋滞は、排気ガス・省エネ・低炭素化などの環境問題などを発生させます。最近では、数式モデルを使って様々な交通流において現実に起こる渋滞の発生や消滅が説明できます。 渋滞を抑制するような交通規制や運転・操縦の自動アシスト機構などの設計方法も研究してます。

スマートグリッド(電力エネルギーネットワーク)における動的意思決定法
現在、多くの国がスマートグリッドに巨大な投資を行っています。発電施設から家庭までつながった巨大電力網においてセンサと通信を活用して知能化することで、電力エネルギーの効率的な利用を狙っています。スマートグリッドにおける重要課題は、太陽光発電や風力発電のような再生可能エネルギーへの対応です。これらの発電量は時々刻々と変化するので、それを適切に活用・補いながら総体としての電力量を平均化する技術が必要です。そのため、発電設備・電力系統から工場・事務所や一般住宅の末端の電力機器や蓄電池にセンサ(スマートメーター)を取り付け、通信網で接続して遠隔から監視・制御する取り組みが始まっています。これによって、再生可能エネルギーを効果的に取り込みながら安定した電力を供給できるようになり、事故発生時には問題箇所を素早く特定することで停電復旧が早まります。利用者は、利用電力ピーク時間を調節することで、割安な価格で電力購入できたり、太陽光や風力あるいは自動車などで蓄えた電力を有利な価格で売ることができます。このうな不確定な再生可能エネルギーを適用しながら、電力の需給バランスを実現する動的意思決定法の開発を支える基礎研究をしています。

スマートビルディング
電力需要の70%を超えるといわれるオフィスのさらなる省エネルギー化を目指して、 多種多様多数のセンサ・アクチュエータのネットーワーク活用した システムの設計方法を研究している。主に空調システムの効果的運用が鍵となっている。

携帯電話通信の電力制御アルゴリズムの開発
携帯端末無線通信方式では、複数ユーザが同一周波数の電波を使うため、基地局からの距離にかかわらず携帯端末が同じ送信電力で電波を出すと、近い方からの電波が強すぎて、遠い携帯端末からの信号を分離できなくなります。そのような遠近問題を解決し、かつ、バッテリーの消費をできるだけ抑えるために、各携帯端末は電力制御を行っています。非線形システムに対するロバスト安定化論を活用すれば、電力消費を最小限に抑えながら、他の携帯端末やセル(基地局範囲)からの干渉を抑制し、電波の変動や通信遅れがある状況でも通信品質を落さないような新しい電力制御アルゴリズムが開発できます。

遺伝子ネットワークの動的メカニズムの究明
生物の各細胞は約24時間のリズムを刻んでいて、様々なたんぱく質が関係した濃度変化として観察できます。このリズムが崩れると、生命の維持能力が低下します。どのたんぱく質のどのような動きがリズム発生のための要になっているか、制御理論(ロバスト安定論)を使って解明し、リズム発生条件を解析的に導く研究をしています。総当り的に数値計算やシミュレーションを繰り返すのではなく、数理導出的な方法を開発することで、対象とした個別の一細胞だけでなく、様々な細胞モデルにも普遍的に適用できる解析が可能になります。将来の医薬・医療開発に貢献することを目指した基礎研究です。

下水処理システムの制御設計法の開発
下水浄化に有効な微生物を、活性化させる酸素の供給量や下水処理水の返送・循環などを効果的に行い消費電力を抑えながら水をきれいにするアルゴリズムを開発しています。処理場への下水流入量や濃度が変化すること、システムが複雑・大規模であることに対処することが重要になります。そのため、消散制御理論を導入することで、モデルべース制御を可能にし、流入変動に対してロバストでかつ必要最小限な電力消費となる制御アルゴリズムが開発できます。

グリッドコンピューティングにおける負荷ダイナミクスの解析と制御
最近、クラウドコンピューティングというネットワークをベースとしたコンピュータの利用形態が注目をあびています。これを支える技術の一つがグリッドコンピューティングというもので、広域のネットワーク上にある多数の小型コンピュータ(CPUなどの計算能力や、ハードディスクなどの情報格納領域)をネットワーク経由で協調させる計算・処理形態です。これにより、計算センターやスーパーコンピュータでも足りないほどの大規模計算や大量のデータも、自動的に負荷を複数のコンピュータに分散させて処理することが可能になります。プロトコルを実装していれば、いつでもグリッドに参加して計算資源を利用・提供することができ、利用者は単に自分のデスクトップで処理をしているように見えます。 グリッドは常に時間的に変化していくシステムですから、適切な分散方法と、ユーザ数の増加に対するスケーラビリティの確保が重要です。分散が不適切であったり、通信や協調のためのオーバーヘッドが大きすぎると、参加コンピュータ数が増えるとかえって計算速度と利便性が低下します。参加・移動・離脱が頻発する環境でのダイナミクスを解析し、スケーラビリティが確保する負荷分散を目指した基礎研究です。 その他、ネットワークの混雑(輻輳)を軽減する輻輳制御のアルゴリズムのパフォーマンス解析や設計も行っています。

生物概日リズムの仕組みとロバスト性の解析
人間や生物は一日24時間の生活を送っていますが、それは生物自身の至るところにある 時計が時刻をきちんと教えてくれるからです。太陽を遮断した真っ暗な世界 でもその時計は大体24時間のリズムを持ちつづけるし、それが故に飛行機で 外国旅行をすると私たちは時差ぼけになります。 そのような体内時計が狂うと生物は疾病を引き起こしてしまうから、 巧妙な仕掛けで体内時計は見事に制御されていると考えられています。 時計遺伝子の存在が発見され時計の構造が分子を部品と して説明できるようになっているのは、最近発展のめざましい分子生物 学研究の大きな成果です。しかし、どうしてその構造が 定常的に頑強な振動リズムを引き起こすのか、どの部品が振動に不可欠な基本的 要素なのか、についてはまだ研究の途中です。 体内時計に関わる分子・遺伝子のつながりを微分方程式で記述し, これに制御理論,安定論,ロバスト制御の理論を活用して 体内時計の原理を探求することが,最先端の科学研究です。 近年ヒトゲノム配列解析が一応の完了を見たことで,今後は遺伝子や たんぱく質に関する部品・分子レベルの知識が急速に拡大しています。 その知識を手がかりとして生物を機能システム として理解しようとするのがシステムバイオロジーです。 その科学の発展にはたんぱく質に関する複雑なシステムの挙動の解析が不可欠で、 まさに制御理論が決定的に重要な役割を担っています。

大規模非線形システムの安定論の開発
現代科学技術では、多様・複数のセンサとアクチュエータが一体化した ネットワークのダイナミクスの解析・設計が重要となっています。非線形大規模システムに対して非古典的な安定論を開発すれば、多様・複雑な挙動が潜在する大規模システムの振る舞いの秩序性や性能を解析することが可能になります。その際、通信・伝達遅れを包含する枠組みと、自己相似なダイナミクスの追究を目指しており、それによりネットワークの大規模化にとても有効な数理手法となります。この数理手法の基礎研究の可能性・適用対象は超微小から超巨大、自然から人工まで無限に広く、やりがいと価値のとても高い世界が注目する研究です。

ロバスト制御理論
物は人間が頭で作り上げた数式どおりに振るまってはくれません。 授業での制御理論は、物が正確に数式で表現されている ときのみ有効です.ロバスト性とは, 「対象が変化する物であったり、対象が正確に把握でき なくても、可能最大限の、操作性を確保しよう」という概念です。 それを実現させるのがロバスト制御理論です。

マルチレートディジタル制御理論
現代の人工物は全てディジタルというコーでイングがつかわれ、 信号は微小時間間隔で離散的に近似処理されることが前提になっています。 現代の私たちが必要としている限界にせまる高度な制御においては、 離散時間処理に起因する制御性能の障壁に 悩まされることが多くあります。マルチレートディジタル制御は、 「離散時間処理の障壁を賢くうまく乗り越えよう」 という現代に欠かせない最先端の制御技術です。

ハードディスクドライブヘッドの位置制御設計法の開発
超大容量小型化が加速的に進む中、データを読み取るヘッドの超精密・高速位置決めがますます重要となっています。しかし、ディスク上のトラックに埋め込まれた位置情報の取得レートには絶対的制限があり、最大の障害になっています。そのためにボイスコイルモータとマイクロアクチュエータから成る二段アクチュエータ構成を取り入れて、それらを協調動作させるマルチレート制御理論を開発しています。これにより、取得レートに制限があっても制限がない場合の性能に近づけることが可能になります。
以上のように、動きに関わることであれば何でも興味があり、上記はそのほんの一例です。数学的な理論や物理的な理論を使って、人工機器から自然・生命まで、超微小から巨大な物まで広範囲のシステムを対象に,独自のアイディアをもとに、省エネ、高出力、高速、精密、協調、自律などを実現するアルゴリズム(手順・方式)を創出する基礎的研究をしています。